2013年1月14日月曜日
「ハーモニー」と「屍者の帝国」(ネタバレ)
伊藤計劃の「ハーモニー」を読み終えた。
以下、「ハーモニー」「屍者の帝国」「虐殺器官」のネタバレを含む。
意識をモチーフとしながら、これまでになかったSF的プロット。
ラストのネタばらしが綺麗に決まって、腑に落ちる感じが実に気持ちよい。
人間の感情とか思考というものが、生物としての進化の産物でしかないっていう認識までいったところから見えてくるもの。その次の言葉があるのかどうか、ってあたりを探っている。
あとがきにある上記の発言がそのままのプロット。
意識が進化の産物であるならば遺伝子にその設計図が刻まれているはず。
であれば遺伝子の異常により意識のない人間がいてもおかしくはない。
意識は人間に必要不可欠なものか?意識のない世界とは?
意識を進化の産物として考えたのは新しい。少なくともSFで意識と進化論を組み合わせたプロットは初めて読んだ。
「虐殺器官」でも人間社会を大虐殺に促すのは進化の過程で残された脳の機能だというのがSF的なロジックとして提案されるのだが、それをさらに一歩進めた感じ。
伊藤計劃の作品はいずれもダーウィンの進化論のとらえ方が正しい。
進化とは環境に適応した結果にすぎなく、人間などはつぎはぎの適応の結果の産物に過ぎないとして描いている。SFの世界では進化とは「より高い知性」「バージョンアップ」「特殊能力」などが表現される場合が多いが、伊藤計劃の作品はこの点で一線を画している。※「ジェノサイド」などは進化論的な裏付けが貧弱すぎてゲンナリした…。
しかし「虐殺器官」「ハーモニー」で綺麗に決まっていたSF的ロジックが「屍者の帝国」では全然決まっていない。
「屍者の帝国」は伊藤計劃の遺稿として残された冒頭の30枚から盟友・円城塔が引き継いだもの。
ディファレンシャルエンジンに代表されるスチームパンク、007、映画などのオマージュやダーウィンの進化論など伊藤計劃的なガジェットは多々登場するのだが、肝心のSF的ロジックが存在しないためストーリーがオチてない。
「屍者の帝国」のテーマは「魂=意識」という「ハーモニー」から継承されるテーマだと思われるのだが、仕掛けなしにお話が進行しラストで雲散霧消してしまう。円城塔はそれを「言葉」と表現したが「言葉」だけならば、「初めに言葉ありき」まんまのキリスト教的なアプローチとして普通だし、SF的な捻りがない。
たぶん伊藤計劃はここに某かの仕掛けを考えていたのだろうけども…。それが読めないのは残念でならない。
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